満月の夜、漁師達は色々な漁を試みる。

 特にカメは、満月の夜、皆捕りたがる。満潮になったサンゴ礁のうえに居るカメは、追いかけても深いところへ潜って逃げることが出来ない。 満月の月明かりに照らされたカメは、カヌーの上からでも良く見える。

カメ捕り名人のモンスは、仲間2人とテーベーク近くのサンゴ礁にカヌーを泊めて、石焼きしたパンの実とさっき獲ったばかりの魚を海で洗いながら、いつになったらお腹かが、一杯になるのかと思う程食べて!食べて!食べつづけていた。

 やっと満腹になったカメ捕り名人達は、誰からともなく、自慢話しを始めた。 どれ位大きいカメを獲ったとか。一回の漁で何匹獲ったとか。どれも眉唾ものの自慢話しで、お互いに人の話しは聞いていなかった。

 その時モンスが、「実は、話すと恥ずかしいことなんだけど、俺は背中でカメを獲ったことがあるんだ」と言い出した。 仲間はエーッと言う風にモンスの顔を見たが「うそだろー」と皆相手にしなかった。
しかし、モンスは「うそじゃないんだ」とぼそぼそと話し始めた。
     
 やはり、ある満月の晩、モンスはカメを獲りに弁当持ちで海に来ていた。 焼いたパンの実、ココナッツタロイモ、そしてオカズは昨日の刺身の残りだ。満腹になったモンスは、さあカメを探そうと海を見渡した。
カメはいないようだ。 するとヤ!ヤ! おなかがグルグル? ゴロゴロ! 謂いだした! ちょっと、食べ過ぎたかな? そう思ったモンスは、何となく、もよおしてきたので「誰もいないし、果てしのない水洗トイレだし」と海に入り、浅瀬に出っぱってる石を抱えるようにして用を足し始めた。

 だが、前を向いていたモンスは、後ろから忍び寄る黒い影に気がつかない。 月を見上げて「良い月だなーカメがいたらナー」とひとり思いに耽っていると後ろから黒い影にガバっと羽交い絞めにされた。

 「ウワー! 何だ! 誰なんだ! ギャー! 助けてくれ! ワー」叫んでも騒いでも黒い影は、モンスを放そうとはせず逆に力を入れてきた。イヤダ! 死にたくない! 渾身の力をだしきって岩の上に立ち上がったモンスは、ン! と思った。黒い影が、羽交い絞めしたまま、モンスと一緒に岩の上に立っているではないか! 何なんだ、これは・・。 モンスは、後ろに手を回してみた。冷たくて硬いもの? が、自分に張り付いている。

 モンスには、すぐ分かった。カメだ! 自分をメスのカメだと思い、交尾をしに背中に張りついたのだ!
モンスは、バカであわれなカメを負ぶったままカヌーへもどった。

「だから、そうして、俺は背中でカメを獲ったんだ」モンスの話を黙って聞いていた仲間は、下半身を出したままカメを背負って、海の中に立っているモンスを想像して、あまりの滑稽さに笑い転げて、カヌーから海へ落ちてしまった。

ポンペイ ショートストーリー ~ 目次へ ~

ポンペイ島

※ 2025年の年明けからスタートした「ポンペイ ショートストーリー」は、この第8話で最終回となります
ご愛読くださった皆さま、本当にありがとうございました